いわき海洋調べ隊「うみラボ」活動のきろく

いわき市に誕生した、有志による団体「うみラボ」。けんきゅう員が日々の活動やイベントのお知らせを綴っていきます。

いわきの漁業の未来を考える会(仮)に潜入

「いわきの漁業の未来を考える極秘集会が開かれるらしい」

朝、小名浜の立ち食いそば屋でメシを食っていると、極秘会合の開催を知らせるメールがわたしのフェイスブックに届いた。メールを送ってくれたのは、いつも情報源として頼らせてもらっている業界関係者。魚の入荷情報やおいしい調理法など「超極秘マル得情報」をたれ込んでくれる、頼れるアニキだ。

それにしても、い、いわきの漁業の未来だと?

試験操業が少しずつ拡大し、対象の漁種も増えてきているとはいえ、量もまだまだ少ない。原発の復旧作業がいつ終わるかもわからない。現役漁師たちの悩ましい状況はメディアなどで伝えられている通りだ。それなのに、この苦しい状況の中で「未来」を語るだと? 

いいじゃない!! うん、すごくいい!!! しかも「うみラボ」の活動方針にも合う!

そばを一気にかき込んだわたしは、素早くアニキに「出席」の旨を返信し、そば屋を出た。そして、その日の夜、いわき市平の「夜明け市場」で開催された「いわきの漁業の未来を語る会(仮)」に潜入することに成功したのである。それはまさに、いわきの漁業の夜明けを告げんとする、有志たちの集いであった!

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こちらが、いわきの漁業の未来を考えている人たちだぁぁっ!

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会場はこちら、夜明け市場の「KINKA」。魚料理、めっちゃうまいかったっす。ありがとうマスター!


え~~っと、はい、前置きが長くなりましたが、行ってきました「第2回 いわきの漁業の未来を語る会(仮)」。

会場が居酒屋だったので、漁業に携わるおっちゃんたちの飲み会なのかと思って気軽に来てしまいましたが、地元漁師、仲卸業者、卸売市場関係者、鮮魚店店主など、いわきの魚の流通に関わる方たちに加え、築地市場の関係者、市議会議員県議会議員も参戦するなど、れっきとした勉強会でした。いやいやいやいや、ガチですよこれは。


―資源管理型漁業をいわきの柱に

会のキーパーソンの1人が、持続可能な漁業を提唱する、三重大学・生物資源学部准教授の勝川俊雄せんせい。岩手県宮城県でも、地元の方たちとともに持続可能な漁業に取り組んでおられる第一人者で、この会にも第1回から参加されていらっしゃいます。

勝川せんせいが提唱するのは、持続可能な「資源管理型漁業」。超ざっくり言えば、「あるだけ穫り尽くしてしまう漁業」ではなく、「計画的に魚を管理する漁業」のことです(ざっくりし過ぎ?)。過度な競争や乱獲を防ぎ、資源の維持・増大を図りながら、経済的利益も実現しようというところに狙いがあるのだそうです。

なるほど。

魚をたくさん穫ると量は増えますが、増えた分値崩れしてしまいますよね。値崩れすると、量をカバーしなければならないので、また乱獲に走ってしまう。結果、魚を捕り尽くしてしまい、資源が枯渇し、ますます漁業が成立しなくなるという悪循環に陥ってしまうわけです。漁業はさらに「儲からない」ものになり、後継者も育たない。行く末は、漁業の崩壊・・・。

勝川せんせい公式ページもぜひ参考に
togetter まとめ 惨憺たる日本の漁業 分かりきったがなぜ進まない? も参考に。

メヒカリを例にとると、「いわき市の魚」としてメジャーになったのはいいけれど、メヒカリを皆が競って穫るもんだから、流通量は増えたけれども値段が落ち、穫れば穫るほど、いわき沖からメヒカリがいなくなっちまう、という構図でしょうか。

いやいやいや、困りますよ、メヒカリ食べられなくなるのは!!

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ぐはははは! これがメヒカリの唐揚げだぁぁっ!!(後日市内の某旅館にて撮影)

ですから、こうして勝川せんせいはじめ、さまざまな方たちをゲストに呼んで「資源管理型漁業」を学びながら、いわきの漁業再生への道を探ろうではないかと、それが、この会の趣旨というわけです。わたしはメモを取るだけで目一杯でしたが、普段魚を食べてるだけではわからない根深い問題が、いろいろとあるのですね。参加してなかったらわからなかったもんな。


―いわきの漁業が抱える問題

会に参加した漁師さんの話を伺うと、いわきの漁業も、震災前から「穫り尽くす漁業の弊害」を抱えてきたそうです。

魚値が安定しない ☞ 儲からない ☞ 物量でカバーしようとする ☞ ほかの魚も減る ☞ ますます儲からない ☞ 後継者も生まれない ☞ 食卓から魚が離れていく ☞ 魚の価値が上がらない ☞ 魚価が安定しない ☞ 以下繰り返し・・・・といった具合に。(これはどうも日本の漁業全体が抱える問題でもあるらしい)

しかし、これは漁師と漁協だけの問題ではありません。流通経路が変化したことで、中間流通業者の意義も問われていますし、地元の魚をブランド化するための取り組み不足や、地域の料理やレシピなどのPR不足の問題も絡んでいます。食の安全性をどう訴えていくかの問題ももちろんありますし、法律や条例など、制度的な壁もあるでしょう。

さらに、わたしたち消費者の意識の問題もないわけではない。魚は安く手に入ったにこしたことはないのですが、安さばかりが先行すると、結果的に漁師を苦しめることになり、ひいては、豊かないわきの文化を失ってしまうことにも繋がります。

画一的な魚ばかりが売り場に並び、地域の食文化も失われ、おいしいものが食べられなくなってしまったら、大きな損失ですよね。いやだなあ。魚、いろいろ食べたいもんなあ。

この会に、漁師や漁協の関係者だけでなく、いろいろな立場の方が出席しているのも、横の連携を取りながら、いわきの漁業を立て直したいからこそ。もちろん、業界関係者だけではなく、消費者たるわたしたち「うみラボ」にも、できることがたくさんありそうです。

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資源管理型漁業について丁寧に説明してくれた勝川せんせい。


―いわきの漁業の再生は、試験操業中の今が最大のチャンス!!

それでは、なぜ今このタイミングで「資源管理型漁業」への転換なのか。そこには、「試験操業」が大きく関わっています。

ポイント①「試験操業が、すでに資源管理型漁業である件」

試験操業は、モニタリング調査などで安全性が確認されたものから解禁されていきます。つまり、穫っていい魚の種類が事前に決められているのです。現在、試験操業の対象になっているのはメヒカリノドグロ、ミズダコなど31種。

調査結果などを踏まえ、今後さらに対象魚種が増える予定ですが、「なんでも穫ってよかった」震災前の漁業とはまるで違い、徹底的な「管理」がなされている点は大違いです。

水揚げされるのも「木曜日」と決められていますし、漁師から魚を買い取いとるのも「いわき仲買組合」という組織に限定されています。魚の流通は、極めて計画的且つ集団的です。「一匹狼」の多い漁業では、かなり珍しいケースと言えるかもしれません。

原発事故の影響で始まった「試験操業」ですが、中身は、事実上「資源管理型漁業」なのです。まだまだ漁獲量は少ないものの、価格も安定し、築地市場などからの反応も上々とのこと。安全の確認された魚種から試験操業が行われているため、安全性のPRにも好影響を及ぼしているといいます。

すげえ。そこまでやってるんですね。試験操業と聞くと、「準備体操」とか「ならし運転」のようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、その実、非常にセンシティブに、慎重に慎重に進められているのです。

今後、魚種や漁獲量が増えたときに、さらに一体感を持って取り組むことができるか、漁師たちにこのやり方を納得してもらえるかどうかなど課題はあるようですが、試験操業の「管理システム」を拡大していくことで、資源管理型漁業に移行できるのではないかと期待されているのです。

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飲み会のはずがレジュメも配られ、皆さん真剣に飲んで語り合うとてもよい雰囲気でした。


ポイント②「量の自粛で漁業資源が回復してきている件」

東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響で、いわき市では久しく漁を自粛してきました。しかし、そのおかげで(おかげというのもなんだか変な話ですが)、魚の個体数が回復してきているというのです。まあ、獲ってないわけですから。

会に出席していた漁師たちも皆、「魚は確実に増えている」と口を揃えていました。具体的なデータを精査してみないことにははっきりとは言えませんが、現場の漁師たちが資源回復を実感できているというのは興味深い話です。

日本全国どこを探しても、これだけの長期間、資源を使うことなく “貯めてきた” 自治体は福島以外にありません。新しい漁業に転換するのに、これほどよいタイミングはないというわけです。仮にここで、何の問題提起もせずに、震災前の「穫り尽くす漁業」に回帰してしまったのでは、宝の持ち腐れというものでしょう。

資源が回復している今、持続可能な漁業に舵を取ることができれば、日本の漁業が抱えている問題に、いわきが率先して切り込んでいくことにもなります。それができれば、その「持続可能性」が、いわきのウリにもなり得る。安全であり、おいしく、持続可能であるとくりゃあ、買わないわけにはいくめえよ!

勝川せんせいはじめ、みなさんの力説に、わたしは希望しか見えませんでした。いわきが、日本の漁業をリードできるチャンスにいるわけですから、心が熱くならないわけがありません。いわきの漁業の未来を明るいものにできるかどうか。「試験操業のその先」を、今から見据えていかなければならないのですっ!!!

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というわけで、今回のエントリ、いかがでしたでしょうか。いわきの漁業の未来、皆さんはどのように考えますか?

今回は、長い割にざっくりとした内容になってしまいましたが、次回以降、少しずつ掘り下げて、ここで学んできたことをご紹介していきたいと思います。

いわきの漁業の未来。どうせなら、楽しい未来のほうがいい。「うみラボ」も、いわきの海の面白さを伝えながら、いわきの漁業の未来を見据えていきたいと思います。どうぞ次回をお楽しみに。