いわき海洋調べ隊「うみラボ」活動のきろく

いわき市に誕生した、有志による団体「うみラボ」。けんきゅう員が日々の活動やイベントのお知らせを綴っていきます。

アクアマリンふくしま「第3回調べラボ」緊急報告

みなさんこんにちは。うみラボけんきゅう員の小松理虔です。

アクアマリンふくしまの計測&試食イベント「調べ(たべ)ラボ」も、今回で3回目となりました。先日も、うみラボや調べラボについて福島中央テレビで特集を組んで頂くなど、毎回大きな反響を頂いております。ご覧頂きました皆さま、ありがとうございます。そして、いつも調査にご協力頂いておりますアクアマリンふくしまの皆さん、大変ありがとうございます! 

この「調べラボ」というのはですね、私たち「うみラボ」と「アクアマリンふくしま」の共同企画になっておりまして、福島県沖で釣った魚の放射性物質をオープンな形で計測し、魚について学び、そして試験操業の魚をおいしく頂いちゃおうじゃないか、という素晴らしいイベントです。いやほんとマジで手前味噌ですけど素晴らしいイベントです。その素晴らしさ、改めてここでレポート致しますね。

―まずは海底土の計測

7月19日に開催された第3回調べラボ。この日計測するのは、7月4日に行われた「第10回うみラボいちえふ沖海洋調査」の際に釣ってきたメバルアイナメ放射性物質、それから福島第一原子力発電所1.5km沖の海底土です。7月4日は霧が大変深く、調査も難航が予想されましたが、そこそこ釣果もありまして、サンプルは充分な量を揃えることができております。

まずは早速海底土の計測から。

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アクアマリンふくしまの獣医、富原せんせいのガイダンスのもと、乾燥させた海底土を計測します。7月4日の調査で採取したものですが、当日は大雨の後でしたので、川から流れてくる泥の影響を受けて、おそらく放射線量も高めに出てくるんではないかと予想していたものです。採取時にも、砂系よりも確かに泥っぽい印象でした。

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結果はセシウム合計で82.7Bq/kgと、意外にも少ない値でした。いつもこのエリアは250〜300Bq/kgくらいは検出されていたので、想像以上に低い値でした。

以下、富原せんせいのコメント紹介しておきます。

降雨後で陸域の土壌と思われる粘土質の泥が認められました。そのため、いつもの数値(250Bq/kg前後)よりも高い値を示すと予想していましたが、逆に低い値となりました。陸域の土壌は海底土に比べて大きく汚染されているはずなので、この結果は意外でした。


考えられるのは思ったほど陸域の汚染が高くなかったか、海流の影響で原発北側のあまり汚染されていない場所の泥が流されてきたのか、あまり説得力のある理屈が思い浮かびませんね。田んぼの中干しで流れてきた泥だったのかもしれませんし。


粘土の種類を分析すればどこから流れてきたかわかるかもしれません。粘土鉱物にはイライトとかスメクタイトとかカオリナイトとか種類があってその含有率を調べてみると何か手がかりが得られるかもしれません。現在、アクアマリン環境研究所では金沢大学とため池の粘土鉱物について共同研究を行っているので、機会があれば金沢大学の専門家に見解を聞いてみたいと思います。


あと、相変わらず放射性ヨウ素が検出されていますが、当館の測定機器はNAIシンチレーション式の測定器ですので分解能が低く、放射性鉛を放射性ヨウ素と誤検出してしまいます。放射性ヨウ素だと半減期が短いので同じ試料を時間をおいてから測定すれば誤検出かどうか判断できます。

なるほど、泥の種類を解析・・・・たしかにそれを探ることで、福島第一原子力発電所沖の放射性物質がどのような経路で海に流れてくるのか多角的に分析できるかもしれません。


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原発沖で釣り上げた魚たちの計測

さて、続いては続々と魚の放射性物質の計測結果です。

※写真をクリックすると画像が拡大されます。

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左上からアイナメシロメバル、ヒラメ①、ヒラメ②の4検体です。いずれも7月4日の調査で釣り上げたものになります。

結果は以下のようなものになりました(数値はセシウム137と134の合計値)。

アイナメ  N.D.
シロメバル 58.7Bq/kg
ヒラメ①  6.42Bq/kg
ヒラメ②  28.6Bq/kg

アイナメは意外にもN.Dでしたが、シロメバルから58.2Bq/kg検出されました。国の基準値を大きく下回る値ではありますが、50Bq/kgを超えていますので気になる値です。ヒラメの28.6Bq/kgと検出されていますが、事故当時数千ベクレル級の個体が見つかっていたことを考えると、かなり排出が進んできているなという値でした。

富原獣医のコメントをもとに、それぞれ詳細に見ていきます。

まずは「アイナメ」ですが、平均全長が33cmということで「震災後生まれ」ということが推測できます。ですので、「震災直後に流れ出た汚染水の影響」を受けていません。受けているとすれば「現在の海の影響」のほうなんですね。

富原せんせいによると「小型のアイナメは、大型のアイナメよりも岸に近い場所に生息するので、現在の原発前の汚染状況を見るのには良い試料」なのだそうです。これめっちゃ重要です。もし今現在、小型のアイナメから放射性物質が検出されているとすると、それだけ現在進行形で汚染水が流れ出ていることになるからです。しかし結果はN.D.ということですから、現在の原発前の汚染は非常に軽微であるとわかります。


続いて「シロメバル」ですが、こちらは平均全長28㎝と「大型」ですので「事故前生まれ」だと推察できます。これまでのうみラボ調査でも明らかになっているように、原発近傍のシロメバルが最も汚染が残っている魚種なのですが、富原せんせいによると「7歳以上だと100Bq/kgを超える可能性もありますが、5〜6歳だと100Bq/kgは超えることはないのかもしれない」とのこと。

7歳以上というと代謝も弱いものになり、事故当時に体内に取り込んだ放射性物質が排出されないということが考えられます。これに対して5歳前後の個体は取り込んだ時の年齢が若く、まだ体の成長も止まっていないため、排出が進み、数十ベクレルのところまで排出されてきているというわけですね。なるほど。体長だけでなく「耳石」によって年齢を把握せよということですねー。

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富原せんせいが耳石を取り出す。

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これが耳石だよーと皆に見せると歓声が!

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新聞記者さんも一緒に耳石を学ぶ!


さて3種類目の「ヒラメ」ですが、今回のヒラメは60cmと事故前に生まれたものか事故後に生まれたものかハッキリしません。さらに、ヒラメは根魚と違い移動する魚種なので、原発前の海域で採取された個体としても、「事故当時、原発そばの海域にいたかはわからない」魚種でもあります。

しかし、現在はヒラメから100Bqを超えるような放射性物質が検出されることは少なく、富原せんせいによれば「ヒラメは成長が早く、福島県沖で採取されるヒラメのほとんどが原発事故の年かそれ以降に生まれた個体であり、ヒラメで100Bq/kgを超えることはもうないと思われます」とのこと。

うむ。原発沖でこの状況ということですんで、相馬沖やいわき沖で100Bq/kgを超えるヒラメを見つけるのは至難の業ということになろうかと思います。これは勝手な推測でしかありませんが、原発直近「以外」の海域に限定すれば、ヒラメが試験操業の対象に加えられてもおかしくなさそうです。

いわき市で採取したサンプルの計測

以下の2検体は、原発沖で釣ったものではありませんが、地元小名浜の魚はどうだろうということで、アクアマリンふくしまで採取した魚を測ってみた結果です。

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まずは画像左、小名川のうなぎ。

あ?

小名川のうなぎ?? っってかあのどぶ川にうなぎいるんか!!! 小名川といえば、川沿いのいかがわしい施設から大量に「泡」が流れ出てる川ですよ。うなぎといえば「夜のお菓子」が有名ですが、小名川産の天然うなぎなんて、すばらしい効き目がありそうですね(爆)

話を戻します。

今回のこのうなぎ、土用の丑の日が近いということで、アクアマリンふくしまのご好意で用意して頂きました。こういうタイムリーな魚を計測するということで、より距離感を近く感じられると思います。とても素晴らしいですね。

小名川のうなぎは、セシウム合計で7.84Bq/kg。体長から「震災後生まれ」であることがわかります。従って低いですね。うなぎってそこそこ高いイメージがありましたが、これもアップデートしなければなりませんな。

富原せんせいによると「淡水魚は、海水魚と塩類の取込・排出方法が異なるため、海水魚に比べて放射性セシウムの濃度は少し高い」とのこと。ただ、「福島県浜通りの河川に生息するウナギは海水環境に生息する餌に依存しているため、それほど高い値にはならない」とも。アクアマリンふくしまがこれまでいわきの河川で測定したウナギでは、現在まで100Bq/kgを超える個体は我々の調査では見つかっていないそうです。


そして、画像右側、なんですか? ア、アブラツノザメ? 

こちらも、「夏休みに突入したということで、サメ好きのお子様用に、たまたま、小名浜沖で獲れたアブラツノザメが入手できたので」、ということでわざわざ用意して頂きました。

これですよ、このサービス精神。これが調べラボの素晴らしいところ。

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サメが登場すると、「うわああああサメだああああ」とか言って、子どもたちがいっせいに集まってくるんですね。これが歯だよ、これが鮫肌だよ、なんて言いながら、実際に触れて知って学んでいく。そしてそこにしっかりと「計測」を入れてくる。このプロセス、素晴らしいなあと思います。

結果はN.D.でした。

サメやエイなどの軟骨魚類硬骨魚類に比べて放射性セシウムの排出が遅く濃度が高くなります。しかし、アブラツノザメは普段はあまり汚染されていない深い海に生息するので、測定してもN.D.になったとのこと。

これもめっちゃ大事です。「サメ」と一括りにしないで、どういう生態なのか、どこに棲んでいるのか、どこでエサを食べるのか、そのエサは何なのか。そんなことを詳しく知ることで、現在の海の状況をさらに詳しく見ていくことができるんですね。

すばらしい!!!!

―そして今回の試食へ

そして恒例の試食タイム。今回は、水揚げの都合が悪くいわき市産が用意できず、苦渋の決断ではありましたが、宮城県のカツオを使った「カツオの漬け」と、北海道のホッキ貝を使用した「ほっきめし」でございます。いずれも浜通りでは当たり前の食ですね。素材は他県産ですが、料理は地元。

おいしそうな写真の載せておきますので、皆さんで「ぐぬぬ」してくださいませ。

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カツオの漬け(づけ)。刺身が続くと飽きますからね。さっぱりして非常にうまいです。

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薬味は多めにのせたほうがうまいです。口の中がにんにく・ねぎ臭くなるくらい。

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だしで炊き上げた白飯に、ブリッブリのホッキを豪快に混ぜ込む。よだれしか出ない。

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ホッキの風味が口一杯に広がります。そしてジューシー。3杯くらいいけますね。

―改めて伝えたい、調べラボの素晴らしさ

いやあ、これだけ充実したプログラム、さすがは水族館だなと。水族館の入場料は払わないと入れませんが、調べラボ終わったら普通に中を観覧すれば充分、充分元はとれますし、何より学びの量がハンパではない。

放射性物質の計測プロセスを間近で見られる。
②なぜ高いか、なぜ低いかの根拠を直接聞ける。
③なんならほかの魚について詳しく学べる。
④しかも試食が料亭レベルでうまい。
⑤水族館自体の入場料はかかるけど調べラボは無料。

いやあ、素晴らしいイベントです。

次回は8月23日の予定です。ぜひご家族でいらしてください!!!

なお「うみラボ」は8月9日に行います。ツイッターフェイスブックで調査同行者を若干名募るかもしれません。希望する方はそちらで。

うみラボ第10回福島第一原発沖調査レポ

みなさんこんにちは。うみラボけんきゅう員の小松理虔です。

去る7月4日土曜日、10回目となる原発沖海洋調査を行って参りました。その模様をレポート致します。えーとですね、今回は「採取」のみでございまして、放射性物質の計測は、来たる7月19日のアクアマリンふくしま「調べラボ」にて行います。

ですんで、今回のレポートは完全に「釣りレポ」となっております(爆)。今回採取した魚たちの放射性物質の状況について知りたい方は、調べラボのある19日以降までお待ちくださいませ。釣りレポも大事なんです。すんません。

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さて今回の調査ですが、天候が非常に悪く、開催が危ぶまれました。実は6月の第3土曜日に調査する予定だったんですが、波が高くてこの日に延期されてたんです。今回も出港できないとなると、サンプルが集まりませんのでさすがに大ピンチ。なんとか開催したいなあと思ってたんですが、、、、

もうですね、視界超悪いわけです。

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しかぁし、波も比較的穏やかですし、雨も降らなそうだということで、船のキャプテンと協議をし、出港することに。いやあ、しかしそれにしても霧が深くて前が見えません。普段は広野火力と第二原発前なんかで説明をするのですが、途中はもう霧で陸地なんて見えないので、それも飛ばして一路イチエフへ。

船を出して1時間ちょいで、到着。

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これ福島第一原子力発電所の1.5km沖なんですが、わかりますかね。建屋が4つ並んでいるんですが、うっすらと見えるのがわかるでしょうか。これがiPhoneの限界。次はちゃんとしたカメラ持っていきます。

さて、ここで海底土を採取すると、早速サンプル魚の採取へと移ります。いいですか皆さん、サンプル魚の採取ですからね、釣りじゃないです。サンプル魚の採取ですよ!!

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ここで魚が釣れないと、放射性物質の検査もできませんから、なんとしても釣らねえどなんね。でも毎回素人ばっかじゃ釣れめえよ、ということで、キャプテンが声をかけてくれた数人の釣りの名人たちに、毎回乗船頂いております。名人、必ず結果を残して下さいます。はい。

さあで、我々も釣っぺや! というときに、なぜか海上保安庁が来訪。

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ついにうみラボも逮捕されるのかと覚悟を決めて荷物をまとめていたら、なんかアナウンスしてる。「これが聞こえたら船長は手を振って下さい」みたいなことを言っていて、それにあわせて船長が手を振っているんですね。

これでうみラボも終わりだ。南無三・・・。

と目をつぶって念仏を唱えていたら、あらら、海上保安庁が去っていきました。

ああ、仏はいた!


念のため、毎回キャプテンのほうから海上保安庁には連絡してくれているらしいのですが、東電の敷地とされる「1.5km圏内」には入っておりませんし、れっきとした調査ですので、海上保安庁にトヤカクいわれる筋合いはないわけです。ただ、この日は霧があまりにも濃いので、保安庁の皆さんも状況を確認しにいらしたようです。パトロール大変ご苦労様です!


さて調査。

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うみラボけんきゅう員の八木も、この日は青モノに狙いを絞った様子。釣り糸の動きを慎重に感じ取ります。会話はありません。

すると、この日の第一号は、千葉県流山から参加くださった農家の笠原さん。ビッグアイナメを見事にゲットし、魚も釣れる農家ぶりを遺憾なく発揮されました。

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ちなみにこちらの笠原さん、ご自身のフェイスブックで当日のことをレポートされておりましたので、リンクを貼っておきます。県外から参加された方がどのように調査を体験されたのか、大変貴重な声です。笠原さんありがとうございました。

その後はそこそこ順調に連れました。下の4枚の写真、上から順にニベ、フグ、メバル、ヒラメとなっておりますが、計測サンプルにはこれだけあれば大丈夫でしょう。これだけの悪天候ながらそこそこまとめてくるあたり、我々うみラボも組織力がついてきたのかも、グフフ。

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さて、この日最大の収穫と言えば、ちょっと写真見えにくいのですが、こちら。一見すると光り物でそこそこ大きい魚なので「サバかな?」っと思うのですが、顔がサバじゃない。

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アジィィィィィィィィ!!!

なんと全長45cmを超える巨大アジでした! こんなアジ見たこともありません。いやほんと釣れた時のフォルムは「サバじゃん!」と普通に勘違いしてしまいました。アジってこんなにデカくなるんですね。調べてみると、マアジは成魚になると50cmにも達するのだとか。おいしいのは30cm前後のものとされるようですが、いやあこんなデカいアジ、食ってみたいですなあじゅるり。

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さてさて、この日の釣果ですが、こんな感じ。

前回よりも少なめでした。しかし、メバルアイナメ、ヒラメなどの沿岸性の根魚も釣っておりますので、これは調査には充分です。これらの魚は、7月19日に水族館アクアマリンふくしまで開催される「調べラボ」で測りますよ!


この日、わざわざ千葉県柏からお越し頂いたうみラボアドバイザー、筑波大学の五十嵐せんせいですが、釣れたと思ったら「根がかり」だったり散々だったご様子。

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釣れないと疲れる・・・・今日は心も体も疲れた・・・・。みたいなことをブツクサ言いながら柏への帰路につかれておりました。自然相手ですから仕方ありません。


いつも思いますが、やはり釣りは楽しい。原発沖の「調査」ですけけれども、大海原の前に身を置き、波や風を感じながら、あるいは自然を体感しながら、釣り糸を垂れる。ある種の「静と動の移り変わり」は、やはり釣りならではのものです。福島の海には、やはりこういう釣り客の賑わいが似合いますね。改めて思いました。

そしてやはり、メバルやヒラメといった根魚の多くが、未だに試験操業の対象になっておらず、流通もしておりません。この事実に対する怒りは、改めて船上で感じました。本来はこれらの魚をぼくたちが食えたはずなんですね。ぼくたちの食文化が、事故によって大きく傷つけられた。この実感をさらに強くする調査となりました。

その意味で、汚染水の問題はもやは「漁業者」だけの問題ではない。ぼくたちの本来持っていた豊かな食資源や文化が傷つけられているわけですから、この問題は「ぼくたち自身」の問題でもあるのです。だからうみラボは、これからも船を出し、調査していきたいと思います。

次回第11回うみラボ福島第一原発沖海洋調査は7月18日土曜日。ツイッターフェイスブックなどで参加者を募集しておりますので、どうぞ興味のある方は、参加表明して下さいませ。

ではまた次回。

アクアマリンふくしま「第2回調べラボ」緊急報告

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緊急報告とかいって緊急でもなくもう1週間近く経ってしまいましたが、第2回調べラボの結果について報告しますね。申し遅れましたがうみラボけんきゅう員の小松がレポートします。

「調べラボ」というのは、私たち「うみラボ」と「アクアマリンふくしま」の共同企画でございまして、福島県沖で釣った魚の放射性物質をオープンな形で計測し、魚について学び、そして試験操業の魚をおいしく頂いちゃおうというイベントです。

土曜日の「うみラボ」と日曜日の「調べラボ」というようにセットになってまして、土曜日に原発沖で釣り上げた魚を日曜日に計測するというスタイルで、先月からスタートしました。

と・こ・ろ・が、

今月はですね、調べラボの前日に予定されていた第10回福島第一原発沖海洋調査が高波のため出港できなかったんです。波高2〜3mということで、さすがに一般の方を乗せて釣りやるのはマズかろうと。そこで今回は、事前に市内の港や海岸などで釣り上げた魚を使って放射性物質の計測をやるということになりました。

具体的には、勿来海岸で捕まえたヒラツメガニ小名浜港のイシガニ、同じく小名浜港で釣り上げたホシエイという3種類の魚介類の放射性物質を測ります。原発沖の魚ではありませんが、しかしかえっていわき市内のローカルポイントのリアルな数字がわかるかと思います。これはこれでめちゃくちゃ大事なデータだと思いますよ!


まずはこちら、勿来海岸産ヒラツメガニ

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ちょっと画像に加工が入ってて色に少し違和感ありますが、、、

ヒラツメガニといえば、そうです通称「エッチガニ」。茹でてそのまま食うのが最高ですが、味噌汁に入れても最高ですよね。甲羅に「H」のような模様があるので、いわきでは「エッチガニ」と呼ぶ人が多いです。非常に美味ですよね。わたしも小さい頃によく食いました。父が四倉港のそばで働いていてよく持って帰ってきてくれたんですよね〜。懐かしい!

ちなみにこちらのカニはすでに試験操業が行われております!!


で、結果です。コチラ!!

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結果はN.D.でした。

アクアマリン富原せんせいによる詳しい解説は下のほうで紹介します。


次に2種類目。小名浜港産イシガニ!!

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夜になると小名浜港の岸壁にひっついてるんですって! いやあそれにしてもこちらもうまそうなカニですね。防波堤から直接狙えるカニでして、しかも味噌汁にするのに最高とのこと。そのまま半分に甲羅ごと切って、トマトと煮込んでパスタソースにしたりしたら最高じゃね? いやあ、考えただけで生唾出てきますなあ=3

ちなみにイシガニは全国的にあまり流通しない種類であるようで、そもそも試験操業の対象には入っていません。でもこれ、けっこう珍味として可能性あったりするのかもしれません。

で、カニの放射性物質の計測なんですが、筋肉だけ取ろうとすると、メヒコのカニピラフみたいに全部掘っちゃくって身を出さないといけない。それはあまりに手間がかかるということで、3日ほど乾燥させて、それを潰して粉砕して粉々にして、ふりかけのような状態になってからその粉を計測するんです。

乾燥させたのがコチラ。純度100%のイシガニパウダー!!

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調べラボでは、粉にする工程まで私たちの目の前でやってくれるんですが、それが実に面白い。中学校の理科の実験みたいな面白さ。「へぇ〜〜」という発見や驚きがいくつも転がっています。

しかしねえ、それにしてもとてつもないカニ臭が部屋に充満します。なんというかあの旨味と甘みの混じりあったアレですよ。すごいです。

で、結果です。コチラ!!

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こちらもN.D.でした。乾燥させると精度があがって検出限界値が下がるのですが、それでもN.D.。甲殻類はもともとセシウムを貯めにくいということがわかっていますが、それを裏付けるデータで安心できますね。


以下、富原せんせいの解説です!

甲殻類は放射性セシウムを蓄積しにくいので、事故後、海の汚染が改善されると速やかに汚染度は低下しました。ただし、甲殻類の中腸腺(カニみそ)は放射性銀が蓄積されやすく、事故後1~2年は高い値を示したのではないでしょうか。しかし、放射性銀の半減期は約250日で、すでに6半減期ほど経過していますので、現在では非常に低い値になっていると思われます。

当館のNAIシンチレーション式検出器は分解能が低く、放射性銀はエネルギーのピークの近い放射性セシウムとして検出されてしまいます。2013年の測定では放射性セシウムが検出され、甲殻類なのに何故、放射性セシウムが検出されるのか疑問に思っていましたが、放射性銀の存在を知って納得したのを覚えています。今回の結果はN.D.でしたので放射性セシウムも放射性銀も非常に低い値だったのだと思われます。


さて続いての獲物はホシエイです。ホシエイっつっても干したエイじゃございません。はじめからホシエイという名前のエイです。

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@yajifunさんのツイートより写真拝借しております。

これですねえ、なんとなんと、肝が大きく美味で刺し身で食べられるため、牛や豚のレバ刺しに代わるものとして注目を集めているんですって!! マジか!!!!と思ってネットでいろいろ調べてみたらエイのレバ刺しは断然うまいらしいっすね。いやああああ、食べたい。

しかし、エイ類は震災後は高めの放射性物質が計測されていますし、コモンカスペなど食用されていた種類も、まだ試験操業の対象にはなっていません。今後、継続して慎重に調査していくべき魚種です。今回はどうでしょうか。

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結果はN.D.

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コチラも結果はN.D.


というわけで、計測した2尾ともN.D.でした。

アクアマリンの富原せんせいによると、ホシエイは普段、外洋に生息しているが、6月ぐらいに沿岸にやってくるようで、今だと夜に水族館のすぐ前で簡単にすくえるそうです。

エイやサメなどの軟骨魚類硬骨魚類(普通の魚)に比べて放射性セシウムを蓄積しやすいため、コモンカスベなどは食品の基準値である100Bq/kgを超える個体も昨年まではしばしば見受けられましたが、富原せんせいによれば「ホシエイは原発事故直後は深い海にいたためあまり汚染されなかったようで、当館の測定結果では毎回N.D.となっています」とのこと。

ホシエイは6月くらいになると沿岸にやってくるが、3月くらいはまだ寒くて深い海にいた。だから汚染を免れた。そうすると、年齢もさることながら「3月〜4月の間どのあたりを泳いでいたか」を知ることが、魚種の放射性物質の傾向を読み取ることにつながるのか・・・。

いやあ、魚の生態を知ることが、海洋汚染の状況を読み解くヒントになるわけですね。うむ。我々はこれからも魚のこともっと勉強しなければいけないようです!



そしてぇぇぇぇぇ!!

調べラボといえば、試験操業の魚の試食です! 食わずにはいられません!!!

まず一品目がこちら。ヒラツメガニのカニ汁

うまさを語ると野暮。ですから多くは語りません。ああああうまかった!!

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そして二品目がマダラのフライ

揚げたて。要するにフィッシュアンドチップスのフィッシュのほうですね。

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福島の魚について詳しくなる学びの場であるうえに、うまいもんまで食えるなんて・・・なんだろうこのイベント。思わずマダラのフライ3つも食べちゃいました(すまそ)。

いやあ、この日は日曜日ということで家族連れのお客様がたくさん来てくれました。うまそうな匂いに釣られたのか、皆さん二品とも試食して下さいました。試験操業の魚を普通においしく食ってる状況、積み重ねたいですねえ。いやあ、これが本来あるべき姿ですよ。

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来月も、調べラボは第3日曜日に開催されます!!

YOU、来ちゃいなよ! 来月の調べラボに!!!

第9回うみラボ福島第一原発沖海洋調査(調べラボ編②追記)

ご機嫌いかがですか? うみラボけんきゅう員の小松です。

5月16に開催されました、うみラボ第9回海洋調査の模様、前回まで2回に渡ってお送りしてきましたが、まだ調査結果の出ていなかったサンプルの計測結果が上がってきましたので、そのご報告と考察です。

前回は検体①〜⑤までを報告しましたが、今回は、まずは原発沖の海底土。これは、海底土を乾燥させてから計測する必要があり速報できませんでした。それから検体⑥としてシロメバル(4個体)、検体⑦アイナメ(2個体)として、検体⑧がいわきサンマリーナで釣ったシロメバルです。


********測定結果*********

試料 海底土 採取場所:福島第一原発沖1.5km
Sc137:146Bq/kg Sc134:36.7Bq/kg Sc合計:183Bq/kg
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検体⑥シロメバル(4個体) 採取場所:福島第一原発沖1.5km
Sc137:84.0Bq/kg Sc134:21.7Bq/kg Sc合計:106Bq/kg
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検体⑦アイナメ(2個体) 採取場所:福島第一原発沖10km圏内
Sc:137:8.59Bq/kg Sc134:N.D. Sc合計:8.59Bq/kg
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検体⑧シロメバル 採取場所:いわきサンマリーナ
Sc137:12.6Bq/kg Sc:134N.D. Sc合計:12.6Bq/kg
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計測結果は以上のようなものになりました。

う〜ん、メバル、100Bq/kg超えてしまいましたね。4個体合わせて、ということですから、どれか1尾が突出していたのか、あるいは平均的になのかはわかりませんが、こうして100Bq/kgを超えてくるような個体があるということは、まだまだ試験操業の対象に選ばれるには時間がかかるやもしれませんね。

原発から遠く離れたいわきサンマリーナでもシロメバルは12.6Bq/kgでした。検出はされていますが、国の基準値を大きく下回る低い値です。メバルは体の中に放射性物質を溜めやすい魚種です。そのシロメバルが12.6Bq/kgですから、他の魚種について推測する好意的なデータではあります。とはいえ、こうして検出されるデータを注視して観察する必要がありそうですね。

さて、ここからは、アクアマリンふくしま富原獣医の考察です。前回レポートした魚種(マダラ、マガレイ、マゴチなど)についても、合わせてこちらでご覧下さい。


以下、富原せんせいの考察。

○海底土 183Bq/kg

前回の調査では53Bq/kgで、いつも(平均267Bq/kg)より低い結果が出たので、冬場に海が荒れて拡散して薄まったのかもと思ったのですが、今回の結果からみると、あまり変わっていないですね。海底土は移動するので同じポイントで測定しても測定値にはばらつきがあります。今まで200〜300Bq/kgの範囲に収まっていたほうが珍しかったのかもしれません。今後の継続調査の結果次第ですね。


シロメバル 検体①N.D. 検体⑥106Bq/kg 検体⑦12.6Bq/kg

原発前10kmで21.6Bq/kg。原発前1.5kmで106Bq/kgでした。うみラボで調査を始めてから2例目の100Bq/kg越えです。以前の測定結果で解説した通り、シロメバルが一番100Bq/kgを超える確率が高い魚です。これは、シロメバルが寿命の長い魚で、移動もあまりしない根魚だからです。特に原発の南側の浅い海域の根に付いている大きなシロメバルはまだまだ汚染が残っています。これは2011年4月に汚染水が大量放出され、南側に流れたからです。今回、100Bq/kgを超えた原発前1.5kmの個体の平均年齢は8歳ほどだったので、この時放出された汚染水の影響が一番残っている魚です。
同じシロメバルでも、少し海域が離れた水深の深い原発前10kmのシロメバルは21.6Bq/kgでした。原発前1.5kmの個体よりも一回り小さく、平均年齢が6歳ほどでした。事故前生まれですが若い分代謝も早かったのか、少し深い海域だったからか100Bq/kgを超えませんでした。小名浜で釣った検体⑦については、計測に必要な量の半分ぐらいで測定したので、たぶん高めで測定されています。まあ、こんなもんですね。

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今回、釣れたシロメバルの中で一番大きな個体だったシロメバルの耳石。富原せんせいに見て頂いたところ10歳程度とのこと。10歳ということは、もうすでにかなり高齢ですので、代謝も悪くなっており、震災当時に取り込んだ放射性物質の排出が進んでいない可能性が考えられます。


○マガレイ 検体②N.D.

水深15mぐらいの浅場でマガレイが釣れることは驚きました。マガレイの産卵期は初夏ですので、たぶん産卵行動による移動だと思われます。ただ、震災前はこれほど多くのマガレイが浅場で釣れたことがなかったことから考えると、3年間の漁業自粛によって資源量が大幅に増えたのでしょう。浅場のカレイ類(マコガレイ、ババガレイなど)は放射性セシウムの量は他の魚に比べて高い傾向がありますが、マガレイはもともと深場のカレイなのでN.D.という結果となっています。もし、移動しないで浅い海域にずっといるのなら今後、放射性セシウムが検出されることもあるかもしれません。とりあえず産卵期が終わり深場に帰っていくまで数か月間で、原発前のマガレイの放射性セシウムの量が変化するのか見ていきたいですね。


○マダラ 検体③N.D.

マダラは成長の速い魚で60㎝を超えていても2〜3歳です。震災後生まれで回遊する魚なのでN.D.という結果となりました。福島県沖で捕獲されるマダラの多くが2〜3歳ですので、試験操業の対象魚にマダラが入っているのは納得できます。今回の調査以外でも何度かマダラを測りましたが、5Kgを超えるような原発事故前生まれの個体だと1桁Bq/kgでることもあります。当館のNAIシンチレーション式測定器では1桁Bq/kgは測定できませんが、乾燥粉末にすることによって濃縮させ、何とか測定しています。


アイナメ 検体④N.D. 検体⑧8.59Bq/kg 

2試料測定しました。調べラボ時に測定した検体④(45cm)のアイナメはN.D.となりましたが、小ぶりの検体⑦(35cm×2尾)は8.59Bq/kgの放射性セシウムが検出されました。通常、大きな個体が年齢も高く、放射性セシウムが検出されやすいのですが、アイナメの場合は小型の個体は、より沿岸に生息し、成長すると汚染されていない深い海に生息域を移動させるので、原発前の海域だと小さな個体のほうが検出されやすいのかもしれません。ただ、小さな個体は事故後生まれ(3歳前後)なので100Bq/kgを超えるようなことはないと思われます。今の原発前の海域では20Bq/kg前後まででしょうね。


○マゴチ 検体⑤N.D.

50㎝を超えるような個体ですがマゴチは頭でっかちなので筋肉は少ないです。そのため3個体で測定しました。50㎝でもマゴチは成長が早いので1〜2歳でした。事故後生まれのためN.D.です。個人的にいわき周辺の海域で釣れる魚で一番美味しいと思っている魚ですので喜ばしい結果です。


というような考察でありました。いやあわかりやすい。

シロメバルは一番汚染が深刻な魚種とされていますが、であれば、シロメバルが堂々と食べられるようになったときが、福島の漁業の完全復活ということになるのかもしれません。その日まで、我々はシロメバルを追いかけていく必要がありそうです。

とはいえですね、震災当初のような数千ベクレル、あるいは数百ベクレル級の汚染が見られる個体は、湾外に限ればもう見つかりません。これまでうみラボで調査してきたうち、100ベクレルを超えたのは、昨年のヒラメと今回のシロメバルだけなんですね。基準値を下回る魚がほとんどだということは、震災直後から考えれば、非常に大きな事実です。

データを確かなものにするために、我々はまた来月も、そして再来月も、海に出ます!

第9回うみラボ福島第一原発沖海洋調査(調べラボ編)

お世話になっております。うみラボけんきゅう員の小松です。

5月16日に開催されました、うみラボ第9回いちえふ沖海洋調査の模様、今回が後編「調べラボ編」でございまして、放射性物質の計測結果などをお知らせしますね。

で、記事の最後の部分、海水からのセシウムの移行についてのテキストもまとめましたので、そちらもぜひご覧頂ければと。

なお、この日の調べラボのまとめ記事を、@yajifunさんに作成して頂きました。togetterにまとまってますので、こちらもぜひ参考に。
▶ togetterまとめ「第一回 調べラボ ~いわきの魚を食べてみよう~」


で、本題に入る前に、「は? 調べラボ?」って感じですかね?

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調べラボは、「調べ」と書いて「たべ」と読む、すなわち「たべラボ」。「調べる」と「食べる」両方の意味がかかっている企画です。うみラボの調査で釣ってきた魚を調べて、そしていわきの試験操業の魚を食べようという、食べて学んで調べておいしいサイエンスカフェというあんばいです! 

うみラボけんきゅう員の八木が、アクアマリンの富原せんせいと「裏アクアマリンツアー」というものを企画しており、「調べラボ」は、その増大版という位置づけです。富原せんせい、吉田せんせいのお2人から、さまざまな話を直接伺いながら、いわきの海の豊かさを知ろうじゃないかという、とても素晴らしいイベントなんです!

5月17日日曜日。朝10時に調べラボスタート。前日のうみラボで採取した海底土、マダラ、マガレイ、メバルなどの放射性物質を測っていきます。その都度、お2人の先生から専門的なレクチャーがあり、しっかりと基本を理解した上で、汚染の状況を知ることができます。うむ。

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魚の年齢を知る上で重要なカギとなる「耳石(じせき)」も、実際に採取して顕微鏡に映してみたり、計測中の土や魚のスペクトルを見つつ計測のイロハを学んだり、はたまた富原せんせいや吉田せんせいが釣った魚について話を伺ったりと、まあとにかくいろいろ自分の知りたいことを専門家に聞ける機会になっているのですよ。

そして、うみラボの活動の様子を紹介するパネル展示なども充実しておりまして、いわきの海の現在位置を知ることができる、非常に有意義な展示になっていました。

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そしてなんといっても、いわきの試験操業の魚の試食。今回は、四倉の老舗大川魚店さんのご協力で入手した「メヒカリ」と「ニクモチ」の干物を試食。それぞれ「マルアオメエソ」、「ミギガレイ」と正式名称が書いてあるのが水族館らしいなとニヤリ。

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で、計測結果です。すべて前日のうみラボで採取したサンプルになりまして、当日もこのようにすべての検体を出して展示もしているんですね。これもひとつの水族館ならではの展示でしょう。これが福島第一原子力発電所沖で釣ってきた魚になります。

※マゴチのみ、タイミングよく釣れて釣具店に持ち込みになった個体がありまして、それも測ってみましたので参考までに。

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検体①シロメバル 4個体
Sc137 : 14.8Bq/kg Sc134 : 6.85Bq/kg Sc合計:21.6Bq/kg
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こちらは平均全長が27cmと、原発事故当時、すでに成魚だった個体と考えられます。汚染水流出時に取り込んだ放射性物質がまだ抜け切れていないということが考えられます。ただ、非常に線量の高い個体として知られていたメバルですが、100Bq/kgを超えるような個体は探すのが難しいほど減少してきているのも事実。今後も継続して調査していくことが求められます。


検体②マガレイ 4個体
Sc137 : N.D. Sc134 : N.D. Sc合計:N.D.
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マガレイは、すでに試験操業の対象になっています。試験操業の対象漁区は「県内全域」ではありますが、念には念を入れて原発沖20km圏内では操業されていません。しかし10km圏内でも実際にはこのようにN.D. すでに安全が確認された魚種ですので、検出されないことはわかってはいましたが、こうして実際の数値にも出ており安心できますね。


検体③マダラ 1個体
Sc137 : N.D. Sc134 : N.D. Sc合計:N.D.
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マダラもすでに試験操業対象になっています。さらに、前々回のうみラボでも大量のマダラを釣り上げ計測してみましたが、いずれもN.D.でした。マダラは出ない。こういう結論でよいでしょう。こちらも試験操業の正当性が確認できました。


検体④アイナメ 1個体
Sc137 : N.D. Sc134 : N.D. Sc合計:N.D.
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かなり大型のアイナメでして、原発事故発生時すでに成魚だったことが推察されます。事故直後2011から2012年にかけて、非常に高い線量の個体が見つかったこともありましたが、排出が進んでいるものと見られます。しかし、この個体は原発沖10km沖ギリギリあたりで釣った個体ですので、さらに原発そばのものになるとわかりません。継続して調査しなければなりませんね。


検体⑤マゴチ 3個体 ※採取場所:常磐共同火力勿来発電所排水部
Sc137 : N.D. Sc134 : N.D. Sc合計:N.D.
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マゴチも沿岸部に棲む魚で、未だに試験操業の対象にはなっていません。原発から遠く離れたいわき市勿来火力の排水部分、まあここは震災前からずっと有名な釣りポイントでしたけれども、放射性物質は検出されませんでした。


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で、ここからが大事なんですが、汚染した海底土からセシウムがどの程度移行するのかという調査を、アクアマリンふくしまと中央水産研究所のグループがやっていたんですね。で、その結果、海底土の放射性セシウムは、魚へはほとんど移行しないとの結果が出たそうです。

調査結果も読ませて頂きました。

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グループは、2014年7月から49日間、5トン水槽に底魚のヒラメ約40尾と、浮魚のクロダイ約100尾を分けて飼育。第1原発近くから採取した1キロ当たり400ベクレル程度、同県いわき市四倉沖の100ベクレル程度の海底土を2基の水槽にそれぞれ敷き詰め、海水は同市小名浜沖の水を掛け流し、餌は放射性セシウムを含まない配合飼料を与えました。

その結果、海底土の汚染濃度の違いや底魚、浮魚にかかわらず、海底土や海水から放射性セシウムをほとんど取り込まなかったそうです。富原せんせいによると、「現在の福島県沖においても、魚が新たに海底土から放射性物質を取り込み、食品の基準値1キロ当たり100ベクレルを上回る水準に達する可能性はきわめて低い」と解説してくれました。

今回の実験では、魚の餌になるアオゴカイの飼育も同様の条件で行ったところ、海底土の放射性セシウム濃度に対してして20分の1から40分の1程度の移行を確認したそうです。富原せんせいによると「実際の環境では魚は餌となる生物を介しても放射性セシウムを取り込んでいると考えられるため、全容を解明するためには餌となる生物を介した実験を継続する必要がある」とのこと。

泥の吸着力というのはすごいんですね。引き続き、全容解明のために調査が続くとのことですので、うみラボも注視したいと思います。

第9回うみラボ福島第一原発沖海洋調査(うみラボ編)

みなさんこんばんは。うみラボけんきゅう員の小松理虔です。5月16日に開催されました、第9回うみラボ福島第一原発沖海洋調査についてレポート致します。

今回からですね、なんとなんとなななんと、環境水族館「アクアマリンふくしま」と共同プロジェクト「調(た)べラボ」が始まりまして、土曜日の釣り調査が「うみラボ」、日曜日の放射性物質の計測が「調(た)べラボ」というようにですね、土日2日連続のプログラムとして展開していくことになりました!!! 8888!!!!

したいがいまして、

毎月第3土曜日「うみラボ」:いちえふ沖で海底土採取&釣り
毎月第3日曜日「調べラボ」:釣った魚の計測&試験操業の魚の試食

ということになります。

これまでは当日のうちに放射性物質の計測まで行っていましたが、最後まで見ると午後5時くらいになってしまい、ヘトヘトになってしまうんですよね。遠方から来る方の負担なども考えると、やはり2日間に分けたほうがいいだろうなということもあり、今回「調べラボ」がスタートするのを利用して、土日の分割調査ということになりました。

ブログのほうも、「うみラボ編」と「調べラボ編」の2回に分けてお送りしたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。


さてさて、今回の調査の模様ですが、第9回目にして初めての悪天候。出発時すでにドシャ降りの雨に見舞われまして、正直船出せんのかと思ったのですが、風もあまりないし、波も高くないということで、定刻通り久之浜漁港を出発します。

前回から調査に加わって頂いている、アクアマリンの吉田せんせい(下)。地元いわき海星高校卒業ということで、やはりいわきの海が似合います。憎いねえコノコノ!! 富原せんせいの右腕として、毎度適切なアドバイスを頂いております。

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久之浜を出ると、途中、広野火力発電所を通過し、およそ1時間ほどで、富岡町に到着します。富岡町では、海側から陸地を見学し、現在の状況などについて情報共有する時間となっています。

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上の写真は、福島第二原子力発電所(左)と震災瓦礫の減容化施設(右)。

福島第二原子力発電所は、今年に入ってすべての燃料が原子炉から取り出されまして、現在は発電をしていません。今は何事もないように見えますが、東日本大震災では、一時電源が喪失し、原子力緊急事態宣言も発令されているのですよね。つまりギリギリだったと。ここが爆発していたらと思うと思わず冷や汗が出てきます。

そして、出港から1時間ちょいで、福島第一原子力発電所に到着。

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霧でほとんど何も見えません。

この日は海上濃霧注意報も出てまして、非常に霧が深い。で、この霧の写真を見ると「うわあああ原子炉から蒸気が出てるぅぅぅ!」とか脊髄反射してしまう方もいると思うのですが、この海域って、この季節はまだまだ海水温が低いんですね。で、温かい空気が入ってくると、海水で空気が冷やされ、霧が発生することがよくあります。

いわきの沿岸部に住んでいると、5月から7月くらいにちょくちょく濃霧が発生し、沿岸部で滞留してしまうのをよく見るので、「あああ今日も霧だなあ」と思うんですこの時期特に。朝方の霧が深くて、小名浜に住んでいるとタンカーが警笛を鳴らすのが聞こえるので、その警笛で目が覚め、「ああ、今日は霧が出てるなあ」とかわかるんですが、遠方の方は心配されるかもしれません。

霧です。蒸気ではないので、どうかご安心を。空間線量も、富原せんせいの線量計で0.04μSv/hと低い。安心して調査に当たることができます。

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原発沖1.5kmのポイントに到着すると、さあ調査開始。

まずはエクマンパージ採泥器で、海底土を採取します。これですねえ、今でこそアクアマリンふくしま様のご協力のおかげで、毎回安定して海底土を採取できているのですが、第1回などは、鍋で海底の泥を掬おうとして大失敗してるんですよね。それから考えると、うみラボ、本当に進歩していると思います(涙)

で、海底土の採取が終わると、サンプル魚の採取に入ります。

この季節、まだ海水温が低く、この周辺の海域で釣りをするのは難しかろうと言う船長の判断により少し沖、原発から3km程度の海域で魚を狙います。

すると・・・・・



アクアマリンの吉田せんせいが幸先よくマガレイをゲット!!!

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続いてアクアマリンの富原せんせいも、大マガレイを釣り上げるっ!!!

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おおお!

この海域では今の時期マガレイが釣れるんですね! 

マガレイは、平成26年8月から試験操業の対象に加えられました。特に原釜産(相馬)、それから久之浜のマガレイも大型のものが多く、有名でしたよね。やはり煮付けで食べるのがうまい。たまりません。

船長曰く、震災前はこの深さ(30〜40m)ではマガレイは釣れなかったそうです。資源が回復している、あるいはそれに伴って魚の生態が変わってきているということが考えられるようです。

前回の調査でも、メバルが釣れずにマダラが釣れるという状況になっていましたが、この4年余りの禁漁措置、試験操業体制で、当該海域の魚の生態が変わってきているのは確かなようです。人の手が加わってこその漁場なんですね。

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この日は珍しくサバも釣れました。写真ものっけときます!!


さて、マガレイが数尾釣れると、魚群の反応も小さくなってしまい、そこからさらに沖に移動します。おおまかには「原発沖10km圏内」で再度釣り糸を垂れます!! この海域では前々回から継続調査対象になんている「メバル」を狙いますよ!

すると・・・・・・


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獲ったどーーー!!!!

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獲ったどーーーーーー!!!!

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獲ったどーーーーーーーーーー!!!!

「獲ったど」3連発頂きました。爆釣です。ありがとうございます。

釣りの醍醐味を皆さんに味わって頂きたいということで、今回から「貸し竿」システムが始まりまして、毎回ボランティア参加している釣りの専門家からレクチャーを受けつつ、釣りを体験できるようになりました。

数字だけ「○○ベクレル」という情報を得るのもいいのですが、こうして体感して、魚の重みを感じるからこそ、数字が立体的に、実感を持って感じられるということもありますので、こうして皆さんに釣って頂いているわけです。

釣りはやっぱり面白い!

ですから皆さん、せっかくここまで来たのだから、大物を釣って「獲ったどー!」がやってみたいと。初めて釣りをした方も見事30cm級のメバルを釣り上げまして、大満足の様子でした。原発沖という緊張感がありながら、自然の面白さ、福島の海の豊かさを感じて頂いたようです! 

いやあ写真が本当に楽しそうだ!!


というわけで今回の釣果!!

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シロメバル、ウスメバルアイナメ、マダラ、マガレイ、サバなどが釣れました。要するにこれらの魚の放射性物質を、次の日にアクアマリンふくしまで開催される「調べラボ」で測るというわけ。これだけサンプルが集まれば、非常に充実した計測になることでしょう!!

というわけで今回のうみラボ編は、こんなところです。計測の結果については、次回こちらにアップいたしますね。できるだけなるはやでアップいたしますので、少々お待ちを。

第8回うみラボ 福島第一原発沖調査レポ・メバル編

マダラ爆釣の第8回うみラボ。今回がレポート第2弾です。

前回の投稿にも書きましたが、メバル狙いで原発沖に船を出したのに、竿に食いつくのはマダラばっかり。どうも禁漁中に増えてしまったようです。しかしこれでは調査にならない。確かに「釣り」としては面白いのですが、ぼくたちの目的はあくまで「釣り」ではなく「調査」であります。

ほ、ほんとうです。

ということで、原発沖10kmのマダラ爆釣ポイントを一旦離れ、船長の判断のもと小良ケ浜沖約9kmのポイント(原発からはやはり10kmくらい)で、改めてメバルを狙うことに。

するとですね、早速当たりが。

この日乗船して頂いたアクアマリンふくしまの吉田せんせい、いやあ見事な腕前で、さっそく連チャンでメバルを釣り上げて頂きました。上の赤いほうが「ウスメバル」、下の黒いほうが「シロメバル」です。黒いのにシロメバルっちゃどういうことよ! とも思っちゃいますが、メバルの種類もせっかくだから覚えちゃいましょう!

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船酔いだったのか、さきほどまで具合悪そうに灰のようになっていたうみラボけんきゅう員八木もやる気スイッチが点灯。見事な尺メバルを釣り上げました!! さすが八木けんきゅう員。新しいリールが好調だったのか、次々にメバルを釣り上げ、船長からも「八木さんはセンスある」とお褒めの言葉も頂いたようです。ぐぬぬ

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アクアマリンふくしまの富原せんせいも順調で、メバル以外にもこちらアイナメちゃんを釣り上げて頂きました。アイナメも魚の汚染状況を知るために非常に重要な検体ですので、しっかりと持ち帰ります。それにしてもアイナメちゃん、真っ正面から見るとかわいいですね。

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原発沖での釣りの時間はおよそ2時間半程度でしたでしょうか。ご覧のように釣果も申し分なく、これだけあれば計測のための検体は充分です。マダラ、メバル各種、アイナメ、ソイなど、いろいろな魚を釣ることができました。いやあ、やはり釣りは楽しい。

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さて、肝心のメバルですが、この後放射性物質の計測も行っておりますので、まずはその結果を皆さんにご紹介したいと思います。メバルは1尾では量が足りませんので、複数尾を一緒に混ぜて1検体としております。

今回の測定はうみラボ史上、かつてないほどの充実内容となっております!!!


1、シロメバル(6個体で1検体)
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Cs137 : 12.2Bq/kg Cs134:N.D. Cs合計:12.2Bq/kg



2、シロメバル(4個体で1検体)
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Cs137 : 32.1Bq/kg Cs134:N.D. Cs合計:32.1Bq/kg



3、シロメバル(5個体で1検体)
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Cs137 : 20.1Bq/kg Cs134:N.D. Cs合計:20.1Bq/kg



4、キツネメバル(別名マゾイ)(2個体で1検体)
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Cs137 : N.D. Cs134:N.D. Cs合計:N.D.



5、ウスメバル(4個体で1検体)
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Cs137 : N.D. Cs134:N.D. Cs合計:N.D.


ドヤァァァァァァァ!!!!

この計測だけで、シロメバル15尾、キツネメバル2尾、ウスメバル4尾、全部で21尾のメバルを投入しています。いやあ、これ、市場価格にしたらとんでもないですよ。メバルはまだ試験操業の対象になっていない魚種ではありますが、これほど豊かな漁業資源を「食べることができない」というのは、痛恨の極みです。

本来でしたら、このメバルたちが漁師の稼ぎとなり、そして私たちの食卓を豊かにしてくれるわけですよ。原発事故で私たちが失ったものもの大きさを感じずにはいられません。悔しいし、とても悲しいですね。怒りと言っていいかもしれません。だって、食べられないんですよ? こんなうまそうなメバルが。チキショー!!


さて、怒りをおさえて今回の調査結果の分析です。

まずはアクアマリンふくしま富原獣医からのコメントをご紹介します。

1、シロメバルについて

今回は3試料です。①12Bq/kg、②32Bq/kg、③20Bq/kgでした。②、③に関しては耳石から年齢も見てみました。②は5歳が2個体、6歳が2個体、7歳が1個体。③は4歳が1個体、5歳が1個体、6歳が3個体でした。思ったよりも若い個体ですね。シロメバルは15年ほど寿命があるので10歳以上の個体も多く含まれていると思っていましたが、ほとんどが5〜6歳でした。釣りで獲れるシロメバルが5〜6歳がメインの魚だとすると、100Bq/kgを超えるようなメバルはうみラボの調査ではなさそうです。


2、キツネメバル、ウスメバルについて

キツネメバル(マゾイ)はN.D.です。キツネメバルは長生きする魚種で、放射性セシウムが検出されやすい魚なのですが今回は検出限界未満でした。大きな個体でしたので50Bq/kgは超えそうだと予想してたんですが。耳石の年輪を見ると5〜6歳らしく、大きい割には若い個体だったようです。
ウスメバルもN.D.でした。シロメバルと違って成長が早いので3〜4歳の個体だと思われます。2個体ほど耳石の年輪を数えてみましたが、結果は3歳でした。シロメバルと比べて沖合に生息するうえ、2012年生まれなので汚染されなかったようです。

なあるほど。

同じような大きさでも年齢を見ないと詳しい状況がわからないということですね。

例えば「30cmのシロメバル」というとき、(ア)震災時すでに成長しきって30cmになっており、その後も成長が止まっている個体と、(イ)震災時はまだ成長途上にあり、最近になって30cmまで成長した個体と、2種類は存在するということです。

(ア)の場合は、すでに成長し切っているため、これまでの4年間でも排出がなかなか進まず、震災直後に取り込んだ放射性物質が抜け切らずに、未だに体内に残っているパターン。老齢メバルとでもしておきますか。

(イ)の場合は、まだ成長途上にあるため、これまでの4年間で排出が進み、震災直後に取り込んだ放射性物質が抜けていて、検出されても非常に低いかN.D.となるパターン。青年メバルとしておきましょう。

つまり、「30cmのメバル」でも、大きさだけ見たら「老齢メバル」と「青年メバル」とで見分けがつかないということです。いやああこれには参りました。わたしたちうみラボでは昨年「ヒラメ」について「大きさを見ることで年齢がわかり、汚染の状況もある程度推察できる」ということを学んだのですが、どうも大きさだけでは判断できないというわけです。

そこで、魚の年齢を見極めるために、富原せんせいのコメントにもありますが「耳石(じせき)」を見ることになります。耳石は平衡感覚を司る器官で、通常は頭の中にあります。この小さな器官を見ると、木の年輪のように成長が刻まれていて、年齢がわかるというんですね。

メバルの耳石は小さいので、マダラの耳石を参考に見ていきましょう。ちょっとグロい画像もありますが、大切なので掲載しておきます。マダラの頭部を切り、耳石を採取します。わかりますか? この白い物体が耳石です。小さい器官なのでピンセットで慎重に取り出します。(以下、写真提供:アクアマリンふくしま

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こちらがマダラの耳石。ピンセットの先くらいの大きさですね。

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こちらの顕微鏡の写真は、メバルの耳石です。顕微鏡で見ると、このように年輪を確認することができ、震災当時の状況(すでに成長が止まっていたのか、成長途上だったのかなど)も見えてくるというわけです。

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そこで改めて今回のデータを見ましょう。

富原さんが耳石を調べてみたところ、シロメバルの多くは5〜6歳だったことがわかりました。これらのメバルは、震災時は1〜2歳と非常に若く、その後、希釈の進んだ海で成長したため、震災直後に取り込んだ放射性物質の排出が進んだ、と推察されるわけですね。

しかし、それでも現状「数十ベクレルは残ってしまう」ということになろうかと思います。これは国の基準値を下回る数値ではありますが、ごくまれに高い数値のメバルが見つかることがあり、慎重を期して試験操業の対象から外されているわけです。こうした5〜6歳のメバルが、今後どのように排出が進んでいくのか、さらに長期的に調べていく必要がありそうです。

これに対して、ウスメバルは、30cm近くあっても、耳石を見たところ3歳。震災後に生まれ、希釈の進んだ海で成長しているわけですから、当然低い結果になることが予想されますし、結果はN.D.でした。成長の早い魚なんですね。

するとそうか、成長が早い種類なのか、遅い種類なのかを見ていく必要もあるということか。

メバルは寿命の長い魚でもありますし、同じ大きさでも、老齢と青年と混ざってしまっているわけですから、なかなか安全を判断をしにくい魚種なのかもしれません。ううむ。震災当時に被曝してしまったメバルが死んですべて次の代になるまでには、ご長寿だけに時間もかかりますからね。

メバル

今後もやはり継続して調査していく必要がありそうです。