いわき海洋調べ隊「うみラボ」活動のきろく

いわき市に誕生した、有志による団体「うみラボ」。けんきゅう員が日々の活動やイベントのお知らせを綴っていきます。

アクアマリンふくしま「第4回調べラボ」緊急報告

アクアマリンふくしまで開催されている「調(た)べラボ」も第4回目。今回のミッションは①8月9日に釣り上げた魚の放射性物質の計測の続き、そして②いわきの試験操業の魚介類の試食。つまり、しっかり測って、しっかり食べる、それが調べラボです。今回も富原聖一獣医にお世話になりました。

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まずはこちら。原発沖2kmのヒラメの計測からスタート。ヒラメ、かなり大型でして、5枚下ろしにします。3枚下ろしじゃありませんよぉ〜5枚です。これがですねえ、調査のためとはいえ、白身のウマそうな身なんですわ。寿司屋で食ったらいくらになるんだべ、っていう感じの。昆布〆めになんかしたら絶品でしょうなあ。おいしい吟醸酒など合わせたいものです。

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そして調べラボでは定番になった「耳石」の取り出し。

耳石とは、魚の頭にある器官で、年輪のようなものが刻まれ、それを見ることで魚の年齢がわかるんですね。昨年のうみラボでは「体長みればおおまかに汚染の傾向もわかる」というのが共通理解でしたが、例えば同じ大きさ、同じ種類の魚でも、成長には個体差があるため、それが「原発事故前産まれ」か「原発事故後産まれか」は、体長だけでなく耳石を調べなければわからない。ということがわかってきまして、調べラボでは、毎回富原獣医に耳石を調べて頂いております。

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細かく刻んだ魚の筋肉をマリネリ容器に入れ、計測器に入れたら計測がスタート。富原獣医が指差すように、画面上にスペクトルが出てくるので、このピークの山を見極めることで、あらかたどのくらいのセシウムが出てくるかわかってしまうんですね。本来は60分計測するわけですが、おおまかな傾向なら数分で分かってしまいます。これは高そうだな、これはN.D.っぽいなあとか。もちろん、最後まで測らないと検出下限値も下がりませんから、すべてちゃんと60分測りますけれど。

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いやあ、今回は夏休みも佳境ということでたくさんの子どもたちに来て頂きましたよ。とくにサメの解体なんて非常に人気がありまして、富原獣医がサメの内蔵や皮膚などについてしっかりと説明してくれます。メモを取る子どもたちもいて、放射線云々より、やっぱりみんな魚のことが知りたいよなあと、まずはそっからだよなあと、いつも思わされます。テレビカメラも何台も来て頂きました。じわじわとこの取り組みが知られていくといいですね。

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こちらがサメの解体の様子。子どもたちは意外と真面目に、そして楽しそうに見てくれます。魚の解体なんて、一見残酷ですけれど、でも刺身だってなんだって、こうして捌いて作るわけですから、気持ち悪いだ臭いだ言ってられません。それが食うってことですからね。「食育」に力を入れているアクアマリンふくしまならではの光景。調べラボは、この「サイエンス」な感じがとても楽しいんです。ぜひ皆さんにも味わって頂きたいなあと思います。

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そして試食。今回は、ワタリガニのクリームパスタ。いやあ、ガーリックの旨味がきいて、そしてこのカニの濃厚な風味。ワタリガニってーと、なんかちょっと高級なカニのイメージありますけれども、シーズンになると小名浜港あたりでもぷかぷか水面近くで泳いでいるのが目撃されます。富原獣医も、よく小名浜港の岸壁にへばりついてるワタリガニを網ですくって食べるそうです。意外と庶民的なカニなのかもしれません。

もちろんこのワタリガニは試験操業の対象になっています。甲殻類はすでに過去の調査でセシウムを溜めにくいことがわかっており、さらに今回の事故後のモニタリング調査でもかなり初期の段階から安全性が確認されていました。このため、ワタリガニは試験操業の対象になっています。

ちなみに、国の基準って100Bq/kgですけれども、漁協の自主基準はその半分の50Bq/kg。さらにそれ以前に、数ヶ月に渡ってN.D.が続くなど厳しい条件をクリアした魚種のみ試験操業の対象に加えられているので、漁協の基準が50Bq/kgだからっつって40Bq/kgとか30Bq/kgの魚がガンガン流通しているわけじゃない。試験操業の対象になっている魚種、まずN.D.ですね。

―そして計測へ

ざっくりとイベントについて振り返ったところで、放射性物質の計測結果です。

試料①ヒラメ 原発沖2km/66.2cm/N.D.

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耳石で年齢判別を行うと5歳でした。つまり「原発事故前生まれ」です。しかしN.D. 

富原せんせいによると「事故当初は若魚だったため代謝が進み検出限界以下となったと推察される」とのこと。事故前産まれでも、現在5〜6歳くらいだと事故当時は若魚です。事故当時にすでに成魚だった7歳以上でなければ、ほとんど検出されないことがうみラボ調査でも多くなってきました。「福島県で漁獲されるヒラメの大部分は2〜4歳魚なので、来年あたりはヒラメも試験操業対象種に含めてもいいのではないかと思います」と富原せんせい。うむ。ヒラメ復活の日は近いかもしれません!

試料②ハナザメ 原発沖2km/86.9cm/Cs合計 8.39Bq/kg

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体長80㎝を超えていますが、「今年生まれの個体」とのこと。成長の早いサメなんですね。

富原せんせいによると、こちらのハナザメ、「夏になると南方から回遊してくるメジロザメの仲間で、この時期は比較的良く釣れる」そう。こちらの個体は、今年生まれの個体ですし、放射性セシウムの排出の遅い軟骨魚類ですので、「現在の原発前の海洋汚染の程度を最もよく反映する」試料だということです。ちなみに、うみラボの前年の調査(2014/8/17)では、Cs137が19.6Bq/kg、Cs134が6.3Bq/kg検出されました。今年はCs137が8.4Bq/kg、Cs134がN.D.ということで、前年に比べて半分以下ですが、「まだ軟骨魚類放射性セシウムが検出されやすい」そうです。

まあ、ハナザメなどは食用ではないので我々が食うわけではありませんが、現在の海の状況を見ると、セシウムを溜め易い軟骨魚類の場合は、やはり出てしまう。汚染がゼロというわけではないと、そういうわけですね。ううむ。継続した調査が必要ですね。

試料③クロソイ 原発沖10km/43.2cm/N.D.

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ビッグクロソイです。富原せんせいに耳石を査定してもらうと5歳ほどとのこと。事故当時は若魚。このため結果はN.D.でした。「クロソイは根に付く魚であまり移動しないので、少しは放射性セシウムが検出されるかなと思いましたが、クロソイは成長が早いので代謝も早く、事故時に若齢だった個体は現在では排出が進み、今回のようにN.D.か若干検出される程度になるかと思われます」と富原せんせい。今回はヒラメもそうですが、事故前生まれでも、事故当時に若魚であれば排出が進むと言う傾向は一致するようです。

試料④キツネメバル(マゾイ)3個体 原発沖2〜10km/平均全長32.1cm/Cs合計 17.0Bq/kg

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マゾイとよばれています。こちらは3個体合わせて測定しました。

耳石から年齢査定すると6〜7歳とのこと。ヒラメやクロソイと違って「事故当時すでに成魚」だったことが推察されます。これぐらいの年齢の根魚ですと放射性セシウムは検出されます。4月のうみラボ調査でもキツネメバルを釣り上げていますが、そちらは「事故後生まれ」でして、結果はN.D.。やはり、魚の年齢が大きなポイントとなりそうですね。

試料⑤カスザメ 小名浜沖/84.0cm/Cs合計 44.9Bq/kg

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こちら、7月に小名浜沖で獲れたカスザメ。うみラボ調査ではなく、富原せんせいが捕獲したものになります。漁師さんはバイオリンというそうですね。確かに身体がバイオリン型・・・。

原発から離れている小名浜沖なのに、44.9Bq/kg検出されたことは気になります。以下、富原せんせいからのコメント。

「非常に大きな個体ですので事故前生まれだと予想されますが、軟骨魚類は年齢査定が難しいのではっきりしたことがわかりません。今度、年齢査定できるよう勉強しておきます。結果は50Bq/kg近い値となりました。小名浜近辺で獲れる魚としては高い値です。震災前生まれで、あまり移動しない底生の軟骨魚類だからでしょうか。カスザメは普段、砂の中に隠れており、イワシなどの回遊魚が近づいてきたら素早く食いつきます。餌は主にイワシ類なので餌からはあまり汚染されていないと考えられるので、今回の汚染は事故後に流された大量の汚染水の影響が残っていたと判断できます。硬骨魚類の場合は海底土の汚染は直接、移行しないことはわかってきましたが、底生の軟骨魚類の場合にもはたして当てはまるのか? 事故後生まれのカスザメを測定してみないことにはわかりませんね」

ううむ。別にサメは食わないので関係ないっちゃ関係ないのかもしれませんが、気にはなりますよね。セシウムの移行についても、硬骨魚類とはまた違ったかたちになっているのか、継続した調査が必要です。ううむ。次回以降、我々がガンガンサメ釣らないとダメかもですね。

試料⑥フトツノザメ 小名浜沖/約110cm/Cs合計5.12Bq/kg

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こちらも、富原せんせい持ち込みの、小名浜沖のフトツノザメ。いかにもサメといった風貌です。以下、富原せんせいからのコメントです。

「カスザメと同じく軟骨魚類ですが遊泳性のサメですので、カスザメほど汚染されていなかったようです。比較的大きな個体でしたので事故前生まれだとは思いますが、年齢はちょっとわかりません。普段、あまり汚染されていない深い海域に生息している種類ですので、N.D.かと思っていましたが、少し検出されました。現状の海の汚染度からくるものか、事故直後の汚染水の影響が残っていたのか判断しづらい微妙な値です。軟骨魚類って水産重要種になっていないものが多くあまり調べられていません。今後は、もう少し、軟骨魚類のサンプルを増やさないといけませんね」


今回の調査&計測で改めて理解できたのは、
●事故前生まれか、事故後生まれか、だけではなく、
●事故当時成魚だったか、事故当時若魚だったか、事故後生まれか、この3つを考える必要があると言うこと。そしてそれを判別するには「年齢を読み解く」ことが必要だということですね。つまり耳石を見よと。ううむ。福島の魚の今を知るには、やはり「耳石」ですか。

そして、サメ。軟骨魚類セシウムを溜め易いため、それがもし1〜2歳と若ければ、現在の海から受けた影響が数値化されます。現在の海洋汚染の状況を知るには、サメを見ることが必要かもしれません。サメってそんなに食べないので、そこまで興味が湧かなかったのもありますが、今後はさらにサメに着目していく必要がありそうですね。

うみラボ、どうやらサメ釣り船団にならないといけなさそうです。