いわき海洋調べ隊「うみラボ」活動のきろく

いわき市に誕生した、有志による団体「うみラボ」。けんきゅう員が日々の活動やイベントのお知らせを綴っていきます。

第9回うみラボ福島第一原発沖海洋調査(調べラボ編②追記)

ご機嫌いかがですか? うみラボけんきゅう員の小松です。

5月16に開催されました、うみラボ第9回海洋調査の模様、前回まで2回に渡ってお送りしてきましたが、まだ調査結果の出ていなかったサンプルの計測結果が上がってきましたので、そのご報告と考察です。

前回は検体①〜⑤までを報告しましたが、今回は、まずは原発沖の海底土。これは、海底土を乾燥させてから計測する必要があり速報できませんでした。それから検体⑥としてシロメバル(4個体)、検体⑦アイナメ(2個体)として、検体⑧がいわきサンマリーナで釣ったシロメバルです。


********測定結果*********

試料 海底土 採取場所:福島第一原発沖1.5km
Sc137:146Bq/kg Sc134:36.7Bq/kg Sc合計:183Bq/kg
f:id:UMILABO:20150602073417p:plain


検体⑥シロメバル(4個体) 採取場所:福島第一原発沖1.5km
Sc137:84.0Bq/kg Sc134:21.7Bq/kg Sc合計:106Bq/kg
f:id:UMILABO:20150602073518p:plain


検体⑦アイナメ(2個体) 採取場所:福島第一原発沖10km圏内
Sc:137:8.59Bq/kg Sc134:N.D. Sc合計:8.59Bq/kg
f:id:UMILABO:20150602073532p:plain


検体⑧シロメバル 採取場所:いわきサンマリーナ
Sc137:12.6Bq/kg Sc:134N.D. Sc合計:12.6Bq/kg
f:id:UMILABO:20150602073547p:plain


計測結果は以上のようなものになりました。

う〜ん、メバル、100Bq/kg超えてしまいましたね。4個体合わせて、ということですから、どれか1尾が突出していたのか、あるいは平均的になのかはわかりませんが、こうして100Bq/kgを超えてくるような個体があるということは、まだまだ試験操業の対象に選ばれるには時間がかかるやもしれませんね。

原発から遠く離れたいわきサンマリーナでもシロメバルは12.6Bq/kgでした。検出はされていますが、国の基準値を大きく下回る低い値です。メバルは体の中に放射性物質を溜めやすい魚種です。そのシロメバルが12.6Bq/kgですから、他の魚種について推測する好意的なデータではあります。とはいえ、こうして検出されるデータを注視して観察する必要がありそうですね。

さて、ここからは、アクアマリンふくしま富原獣医の考察です。前回レポートした魚種(マダラ、マガレイ、マゴチなど)についても、合わせてこちらでご覧下さい。


以下、富原せんせいの考察。

○海底土 183Bq/kg

前回の調査では53Bq/kgで、いつも(平均267Bq/kg)より低い結果が出たので、冬場に海が荒れて拡散して薄まったのかもと思ったのですが、今回の結果からみると、あまり変わっていないですね。海底土は移動するので同じポイントで測定しても測定値にはばらつきがあります。今まで200〜300Bq/kgの範囲に収まっていたほうが珍しかったのかもしれません。今後の継続調査の結果次第ですね。


シロメバル 検体①N.D. 検体⑥106Bq/kg 検体⑦12.6Bq/kg

原発前10kmで21.6Bq/kg。原発前1.5kmで106Bq/kgでした。うみラボで調査を始めてから2例目の100Bq/kg越えです。以前の測定結果で解説した通り、シロメバルが一番100Bq/kgを超える確率が高い魚です。これは、シロメバルが寿命の長い魚で、移動もあまりしない根魚だからです。特に原発の南側の浅い海域の根に付いている大きなシロメバルはまだまだ汚染が残っています。これは2011年4月に汚染水が大量放出され、南側に流れたからです。今回、100Bq/kgを超えた原発前1.5kmの個体の平均年齢は8歳ほどだったので、この時放出された汚染水の影響が一番残っている魚です。
同じシロメバルでも、少し海域が離れた水深の深い原発前10kmのシロメバルは21.6Bq/kgでした。原発前1.5kmの個体よりも一回り小さく、平均年齢が6歳ほどでした。事故前生まれですが若い分代謝も早かったのか、少し深い海域だったからか100Bq/kgを超えませんでした。小名浜で釣った検体⑦については、計測に必要な量の半分ぐらいで測定したので、たぶん高めで測定されています。まあ、こんなもんですね。

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今回、釣れたシロメバルの中で一番大きな個体だったシロメバルの耳石。富原せんせいに見て頂いたところ10歳程度とのこと。10歳ということは、もうすでにかなり高齢ですので、代謝も悪くなっており、震災当時に取り込んだ放射性物質の排出が進んでいない可能性が考えられます。


○マガレイ 検体②N.D.

水深15mぐらいの浅場でマガレイが釣れることは驚きました。マガレイの産卵期は初夏ですので、たぶん産卵行動による移動だと思われます。ただ、震災前はこれほど多くのマガレイが浅場で釣れたことがなかったことから考えると、3年間の漁業自粛によって資源量が大幅に増えたのでしょう。浅場のカレイ類(マコガレイ、ババガレイなど)は放射性セシウムの量は他の魚に比べて高い傾向がありますが、マガレイはもともと深場のカレイなのでN.D.という結果となっています。もし、移動しないで浅い海域にずっといるのなら今後、放射性セシウムが検出されることもあるかもしれません。とりあえず産卵期が終わり深場に帰っていくまで数か月間で、原発前のマガレイの放射性セシウムの量が変化するのか見ていきたいですね。


○マダラ 検体③N.D.

マダラは成長の速い魚で60㎝を超えていても2〜3歳です。震災後生まれで回遊する魚なのでN.D.という結果となりました。福島県沖で捕獲されるマダラの多くが2〜3歳ですので、試験操業の対象魚にマダラが入っているのは納得できます。今回の調査以外でも何度かマダラを測りましたが、5Kgを超えるような原発事故前生まれの個体だと1桁Bq/kgでることもあります。当館のNAIシンチレーション式測定器では1桁Bq/kgは測定できませんが、乾燥粉末にすることによって濃縮させ、何とか測定しています。


アイナメ 検体④N.D. 検体⑧8.59Bq/kg 

2試料測定しました。調べラボ時に測定した検体④(45cm)のアイナメはN.D.となりましたが、小ぶりの検体⑦(35cm×2尾)は8.59Bq/kgの放射性セシウムが検出されました。通常、大きな個体が年齢も高く、放射性セシウムが検出されやすいのですが、アイナメの場合は小型の個体は、より沿岸に生息し、成長すると汚染されていない深い海に生息域を移動させるので、原発前の海域だと小さな個体のほうが検出されやすいのかもしれません。ただ、小さな個体は事故後生まれ(3歳前後)なので100Bq/kgを超えるようなことはないと思われます。今の原発前の海域では20Bq/kg前後まででしょうね。


○マゴチ 検体⑤N.D.

50㎝を超えるような個体ですがマゴチは頭でっかちなので筋肉は少ないです。そのため3個体で測定しました。50㎝でもマゴチは成長が早いので1〜2歳でした。事故後生まれのためN.D.です。個人的にいわき周辺の海域で釣れる魚で一番美味しいと思っている魚ですので喜ばしい結果です。


というような考察でありました。いやあわかりやすい。

シロメバルは一番汚染が深刻な魚種とされていますが、であれば、シロメバルが堂々と食べられるようになったときが、福島の漁業の完全復活ということになるのかもしれません。その日まで、我々はシロメバルを追いかけていく必要がありそうです。

とはいえですね、震災当初のような数千ベクレル、あるいは数百ベクレル級の汚染が見られる個体は、湾外に限ればもう見つかりません。これまでうみラボで調査してきたうち、100ベクレルを超えたのは、昨年のヒラメと今回のシロメバルだけなんですね。基準値を下回る魚がほとんどだということは、震災直後から考えれば、非常に大きな事実です。

データを確かなものにするために、我々はまた来月も、そして再来月も、海に出ます!